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最高裁判所第二小法廷 平成10年(オ)894号 判決 1999年6月11日

上告人 生活協同組合メセタ破産管財人 三木昌樹

右訴訟代理人弁護士 石田英治

同 木原右

被上告人 沖ノ谷政海

右訴訟代理人弁護士 森井利和

同 東澤靖

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人石田英治の上告理由について

一  本件は生活協同組合メセタ(以下「メセタ」という。)に雇用されていた被上告人が、メセタが平成八年一二月一三日破産宣告を受けたため、その破産管財人に選任された上告人に対し、同二年三月二一日から同六年八月二〇日までの間の未払賃金、未払賞与等合計九一五万七七八三円の債権を有するとして、そのうち、(1) 債権の存在に争いのある三八八万〇六九七円については、被上告人が一般の優先権のある破産債権を有することの確定を、(2) 債権の存在に争いのない五二七万七〇八六円については、一般の優先権のある破産債権であることの確定を、それぞれ求める訴訟である。

二  原審は、右(1)について一五六万一五二九円の破産債権が存在することを確定するとともに、これと右(2)の破産債権(以下、合わせて「本件破産債権」という。)は、賃金債権であるから、民法三〇六条二号、破産法三九条による一般の優先権のある破産債権であることは明らかであるという判断を示し、その範囲で被上告人の請求を認容した。

三  しかし、原審の右判断のうち、本件破産債権が一般の優先権のある破産債権であるとする点は、直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。

民法は、雇人の給料債権に基づく一般の先取特権は雇人が受けるべき最後の六箇月間の給料につき存在する旨を定め(三〇六条二号、三〇八条)、破産法は、一般の先取特権のある破産債権を優先権のある破産債権とする(三九条)が、その優先権が一定の期間内の債権額につき存する場合においては、その期間は破産宣告の時よりさかのぼって計算することとしている(四一条)。ところで、記録によれば、メセタは、被上告人に対し、平成六年八月二〇日付けで解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をしたところ、被上告人は、本件解雇の効力を争って、雇用関係存在確認及び解雇された日の翌日以降の賃金等の支払を求める別件訴訟を提起し、右訴訟は現に係属中であるというのである。そうすると、被上告人は、本件解雇が有効である場合には、本件破産債権のうち、本件解雇の時からさかのぼって六箇月間に支払われるべきであった給料債権につき一般の先取特権を有することになり(最高裁昭和四三年(オ)第一〇九五号同四四年九月二日第三小法廷判決・民集二三巻九号一六四一頁参照)、他方、本件解雇が無効である場合には、破産宣告時からさかのぼって六箇月間に支払われるべきであった給料債権につき一般の先取特権を有することになる。したがって、被上告人が、本件破産債権につき一般の先取特権を有するかどうか、また、本件破産債権のうちいつからいつまでの間に発生した破産債権につき右先取特権を有するのかを確定するためには、本件解雇の効力について判断する必要があるものというべきである。

四  以上と異なり、本件解雇の効力について審理判断をすることなく、本件破産債権の全額が一般の優先権のある破産債権であるとした原審の判断には、民法三〇八条、破産法四一条の解釈適用を誤った違法があり、ひいては審理不尽の違法があるものといわなければならず、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、この趣旨をいう限度で理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件解雇の効力等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫)

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